事業の譲受けは、単なる買収行為にとどまらず、計画的かつ慎重に進めるべきプロセスです。特に中小企業の事業承継やM&Aにおいては、譲受手が成功するかどうかは事前準備と適切な進行にかかっています。この記事では、事業を譲り受ける際に必要な一連のステップを、順を追って解説します。
ステップ1. 戦略策定

事業譲受けのプロセスは、まず譲受手が自らの戦略を明確にするところから始まります。どのような事業を譲り受けたいのか、どのようなシナジー効果を期待しているのか、事業の将来性はどうかといった基本的な戦略を策定します。
戦略の策定におけるポイントとして、以下の2点が挙げられます。
目的の明確化:譲受けの目的を明確にし、事業の取得が自社のビジネスにどのようなメリットをもたらすかを分析します。市場の拡大、技術の獲得、人材の補強などが一般的な目的です。
譲受希望事業の明確化:譲受けたい事業の概要を明確化します。例えば、事業内容、取扱製品、所在地、事業規模、さらには譲受けのための予算などを具体化します。これらの内容を支援機関に共有しておくことで、具体的な譲渡候補先が現れた際、打診を受けられる確度が上がります。
ステップ2. 初期交渉

譲渡側との接触は、主に「自社から譲渡側へのアプローチ」あるいは「支援機関などからの譲渡側の紹介」の2つに分けられます。いずれのルートにせよ、譲受け候補先(=対象会社)が見つかったら、譲渡側と初期交渉を行います。ステップ2における主なToDoは、以下の通りです。
秘密保持契約の締結:交渉を進めるのに先立ち、譲渡側と譲受手との間で秘密保持契約(NDA)を締結します。秘密保持契約を締結した上で、譲渡側から対象会社の詳細情報を受領します。なお、事業承継やM&Aにおいては、受領した資料の内容はもちろん、そもそも対象会社を譲渡対象とした交渉が進んでいることそのものも秘密保持の対象である点、留意しておく必要があります。
譲渡経緯の確認:譲受手として、譲渡手に「なぜ今回、譲り渡す方針となったのか?」についてヒアリングすることが重要です。「対象会社をより発展させるべく、ベストパートナーに会社を譲りたい」といった前向きな理由もあれば、「業績が悪化しており事業の立て直しが必要」といった後ろ向きな理由の場合もあるため、譲渡しに至った経緯について確認することが重要です。
初期条件の合意:譲渡側と譲受手との間で、事業承継を行う大まかな方針について合意できた場合、基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)を取り交わし、事業譲受の条件やスケジュールなどを大まかに合意します。この段階では、価格の目安や譲渡の対象範囲、譲渡の時期などを取り決めます。
ステップ3. デューディリジェンス(買収監査)

デューディリジェンス(DD)は、譲受けプロセスの中でも非常に重要なステップです。譲受手が事業の価値を正確に把握し、リスクを見極めるために詳細な調査を行います。通常、DDは大きく3つの分野を中心に実施されます。
財務DD:財務状況を詳細に調査し、過去の収益、キャッシュフロー、負債、未払金、リース契約などを確認します。万が一、粉飾決算などがあった場合は、通常であれば財務DDの中で発見されます。
法務DD:企業が抱える法的リスクを調査します。例えば、取引契約、労働問題、知的財産、環境問題、訴訟リスクなどが対象となります。契約書の内容や、法的な制約がないかなどを確認することが重要です。
事業DD:事業の運営状況を調査し、ビジネスモデルの健全性や市場の競争環境を分析します。また、顧客基盤や供給網、商品・サービスの強み・弱み、自社とのシナジーなどを検討し、将来の業績見通しとして定量化します。
ステップ4. 条件交渉・契約締結

DDの結果を基に、譲受けの金額を含む契約条件の最終交渉を行います。ここでは、譲渡側との交渉力が問われます。このステップにおける主なポイントは、以下の通りです。
価格交渉:DDの結果を踏まえ、譲渡価格を交渉します。事業価値が想定より低い場合は、価格を引き下げるよう交渉します。一方で、シナジー効果が大きく期待できる場合は、多少譲渡価格が高かろうと譲受を進めることがあります。
契約条件の調整:支払時期、譲渡対象、譲渡後の引継ぎ期間やサポート体制などを含め、契約条件を詳細に取り決めます。
最終契約書の締結:譲渡側と譲受手が合意に達したら、最終契約書を締結します。この契約書には、譲受けの対価、支払条件、譲渡対象などが明記されます。
ステップ5. クロージング

契約書の締結後は、実際に事業の引き渡しを行うクロージングのプロセスに移ります。この段階で、支払いが行われ、事業資産や経営権が譲受手に移転します。
取引対象の譲受:譲受手は、契約で定められた取引対象の譲受けを行います。取引対象は、株式譲渡の場合は株式、事業譲渡の場合は譲渡対象となる資産や負債、より具体的には不動産、設備、在庫、契約書などが含まれます。取引対象の譲受けにおいては、資産・負債などの移転が法的に問題ないことを確認する必要があります。
譲渡対価の資金決済:譲受手は、譲渡対価の支払いを行います。一括払いの場合は全額を支払い、分割払いの場合は契約に基づき支払いを行います。
ステップ6. 事業統合

事業の譲受けの完了後、譲受けた事業を自社の体制に統合し、運営を開始します。譲受手は、事業の統合を円滑に進めるための計画を立て、従業員や取引先との関係を構築することが求められます。事業統合の段階での具体的なToDoとして、以下の様なものが挙げられます。
従業員とのコミュニケーション:譲受後の従業員の不安を解消し、モチベーションを維持するためのコミュニケーションが重要です。まずは新しい経営方針や組織体制を説明し、信頼関係の構築に努めることが重要です。
統合計画の実施:事業の統合計画に基づき、業務プロセスや管理システムの統合を進めます。事業統合により業務の効率化を図るとともに、譲受けた事業と自社の事業とのシナジーを追求します。
モニタリングと改善:事業譲受後は、事業のパフォーマンスを継続的にモニタリングし、改善を行います。譲受けた事業が計画通りに成長しているか、問題が発生していないかを定期的に評価することが重要です。
まとめ
事業の譲受けは、戦略策定から事業統合まで多くのステップを踏む複雑なプロセスです。成功するためには、各ステップを慎重に進め、リスクを適切に管理することが求められます。譲受けた事業が自社の成長に寄与するよう、計画的に各プロセスを進めることが重要です。