中小企業庁は、2024年8月30日に「M&Aに関するトラブルにご注意ください」と題した注意喚起を発表しました。これは、後継者不在の中小企業が事業承継の手段としてM&Aを活用するケースが増加する一方で、不適切な譲受者との取引によりトラブルが発生する事例が報告されていることを受けたものです。
本記事では、不適切な譲受者の概要やトラブル事例について説明します。
- M&Aにおける不適切な譲受者の存在
- 具体的なトラブル事例
- 相談窓口の活用
- 中小M&Aガイドライン
M&Aにおける不適切な譲受者の存在

中小企業庁は、M&Aを検討する際には譲受者の適切性を十分に確認するよう呼びかけています。特に、以下のケースでは注意が必要とされています。
経営者保証の扱いが重要となる場合
譲渡手の財務状況が厳しく、経営者保証の解除や移行が問題となるケースです。譲受者がこれらの手続きを適切に行わない場合、譲渡手の経営者が引き続き個人保証の責任を負うリスクがあります。
譲渡対価の分割払い・後払いの場合
クロージング時点で低額の譲渡対価が提示され、一定期間後に追加の支払いが行われるとする条件が設定されているケースです。このような条件が守られない場合、譲渡手が不利益を被る可能性があります。
具体的なトラブル事例

中小企業庁は、実際に発生したトラブル事例を以下のように紹介しています。
ケース1. 個人保証の未解除
クロージング後、譲渡側の経営者の個人保証が解除されず、譲受者が対象会社の現預金等を吸い上げ、必要な事業資金が不足した結果、対象会社が倒産。最終的に、経営者保証が残っていた譲渡手の経営者が債務を負い、個人破産に至った事例です。
ケース2. 譲渡対価の未払い
クロージング時には低額の譲渡対価しか払われず、後日相当額の退職慰労金が支払われる契約を結んだものの、期日が過ぎても退職慰労金の支払いが行われなかった事例です。
相談窓口の活用

中小企業庁は、M&Aに関して少しでも違和感を感じた場合、以下の専門機関に相談することを推奨しています。
日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)
電話やオンラインで弁護士との面談予約が可能なサービスで、法的な助言を求める際に利用できます。
事業承継・引継ぎ支援センター
各都道府県に設置された公的相談窓口で、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応しています。
中小M&Aガイドライン

中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を策定し、事業を譲り渡す譲渡手として、どのようにM&Aを進めるべきか、どのような観点で仲介者・FAを選定すべきか、各種契約書でどのような点に留意すべきかなどを詳しく解説しています。
中小M&Aガイドラインは、事業承継の譲渡手向けの第1章、及び事業承継の支援機関向けの第2章から構成されています。事業承継を考える譲渡手は第1章をご参照ください。