事業の譲受けにおいて、デューディリジェンス(DD)は、譲受手がリスクを最小限に抑え、譲受対象の価値を正確に評価するための極めて重要なプロセスです。DDを適切に進めることで、潜在的なリスクを事前に発見し、譲渡条件の調整や価格交渉に役立てることができます。この記事では、DDの進め方と見るべきポイントを詳しく解説します。

デューディリジェンスの概要

デューディリジェンスの概要=

デューディリジェンスとは、事業承継やM&Aの場面で、事業の譲受けに先立って、譲受け対象の財務状況、法的リスク、事業内容などを詳細に調査するプロセスです。主に財務DD、法務DD、事業DDの3つの分野に分けられます。各分野ごとに見るべきポイントが異なり、調査の進め方には専門的な知識が必要です。

財務DD

財務DD

財務DDは、譲受対象の会社の財務状況を正確に把握するための調査です。過去の財務データや現在の財務状態を分析し、譲受後の収益性やリスクを見極めます。

具体的な検討ポイントとして、以下の様な点が挙げられます。

財務諸表の確認:過去3~5年程度の財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)を精査し、収益性や財務健全性を確認します。不自然な売上高や売掛金、イレギュラーな費用項目などがないかをチェックします。

キャッシュフローの分析:事業の運営に必要なキャッシュフローを確認します。安定したキャッシュフローがあるか、キャッシュフローの不足分はどのようにまかなわれているかなどを調査します。

簿外債務の確認:財務諸表に計上されない、または計上されるべきなのにされていない負債(訴訟関連の負債や退職給付引当金など)が存在しないかを確認します。簿外債務が存在する場合、譲受手としては譲受対価の引き下げを交渉すべきと言えます。

資産の実態調査:保有する資産の実態価額を調査します。特に、不動産や車両、機械設備などの資産は実態価額が簿価と乖離しやすいため、慎重に検証すべきと言えます。

法務DD

法務DD

法務DDは、譲受対象の会社が抱える法的なリスクを調査するプロセスです。訴訟リスク、契約関係、規制遵守状況などを把握することが目的です。

具体的な検討ポイントとして、以下の様なものが挙げられます。

訴訟や紛争の有無:過去または現在進行中の訴訟案件や紛争があるかを調査します。これにより、譲受後に発生する可能性のある法的リスクを特定します。

契約関係の確認:主要な販売先、仕入先、従業員などとの契約を精査します。契約内容が有利な条件か、不利な条件が含まれていないかなどを確認します。特に、長期販売/仕入契約や独占契約が存在する場合、譲受後の事業運営に影響を与える場合があります。

規制や許認可の遵守:対象会社が業界の規制を遵守しているか、必要な許認可が適切に取得されているかなどを確認します。許認可が不足している場合、譲受後の事業運営に支障が出るリスクがあるため、許認可については特に慎重に検証すべき項目と言えます。

労務リスクの有無:対象会社が抱える労務リスク、具体的には未払残業代や労働争議などの有無について検証します。未払残業代や退職金の引当不足などが存在し、その金額規模が多額に上る場合、譲受価額に影響を与えるものとなり得ます。

知的財産権の調査:特許、商標、著作権などの知的財産権が適切に管理されているかを調査します。知的財産権が他社に侵害されていないか、また逆に対象会社が他社の知的財産権を侵害していないかも重要です。

事業DD

事業DD

事業DDは、対象会社の事業内容や市場環境、競合分析などを調査するものです。事業の収益性や競争優位性、成長可能性を評価します。

具体的な検討ポイントとして、以下の様な点が挙げられます。

ビジネスモデルの健全性:事業の収益構造や主要な収入源など、対象会社のビジネスモデルを分析します。その上で、ビジネスモデルが競争力を持っているか、将来的な市場動向に耐え得るものかなどを確認します。

市場環境と競合分析:対象会社が属する市場の成長性や競争状況を調査します。市場シェアがどの程度か、競合他社に対してどのような優位性を持っているかなどを評価します。

顧客基盤の調査:顧客が安定しているか、特定の大口顧客に依存しすぎていないかを確認します。顧客の離脱リスクがある場合は、譲受後の事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。

サプライヤーの状況:仕入先が安定しているか、重要なサプライヤーとの関係が良好かを調べます。また、主要なサプライヤーとの取引関係が譲受後も維持できるかを確認します。

DDの進め方

DDの進め方

DDを効率的に進めるためには、事前に計画を立て、スケジュールを管理することが重要です。また、DDは譲渡側と対象会社に非常に多くの負担がかかるプロセスであるため、譲渡側や対象会社との信頼関係を損なうことがない様、丁寧に進める必要があります。

DDを進める上での主なポイントは、以下の通りです。

チームの編成:財務、法務、事業など、各分野の専門家を集めてチームを編成します。外部の専門家(弁護士や会計士)を活用することも有効です。

スケジュールの策定:調査項目ごとにスケジュールを設定し、優先順位をつけて調査を進めます。DDは時間がかかるプロセスであるため、効率的に進めるためのタイムラインが必要です。

情報の収集と分析:譲渡側から提供される資料をもとに情報を収集し、各分野の専門家が分析を行います。情報が不足している場合は、追加の資料を求めることがあります。

調査結果の検討:調査結果を踏まえ、事業の譲受けの取引条件にどのように反映するかを検討します。例えば、譲受対価の減額交渉を行う、事業譲受けの前提条件として取引前の解決を図る、取引実行後に問題が発生した場合は取引対価の一部を返還するなどの条件交渉が考えられます。

まとめ

デューデリジェンス(DD)は、事業譲受時にリスクを抑え、対象の価値を評価する重要なプロセスです。財務、法務、事業の各分野で詳細な調査を行い、リスクや課題を特定しながら、取引条件を調整していきます。効率的に進めるためには計画的なスケジュール管理と専門チームの活用が鍵となります。